第010回  ロイヤルウィング出航せよ(下)    2/ 1/2002
本当にお待たせしました。さぁ生山ファミリーの運命やいかに(大げさ)!
「ロイヤルウィング出航せよ(上)(*1)」を公開してから既に1ヶ月あまり過ぎてしまいました。書かなきゃ!って思っていてもなかなか書けなくて。
忘れちゃったよ。という方はも一度最初から読んでくださいね。


19時18分 東神奈川駅

横浜線は定刻どおり19時18分に到着。すぐさま京浜東北線のホームへ。
次の京浜東北線は東神奈川駅を19時22分発。急がなくても大丈夫なのだがつい走ってしまう。
私と咲が一緒に。きっこと芽依が一緒に階段を駆け上る。私と咲が一歩先。京浜東北線のホームに着いた。だがきっこと芽依が着いて来ていない。どうした。降りる階段を反対側に行ったらしい。
きっこと芽依を見つけなければ。しかし電車が来る前に桜木町でちょうど良いポジションを確認したい。
きっこと芽依を探しながらMさんへ電話。
「いま東神奈川です。桜木町は電車のどのあたりがちょうど良いのですか?」
「ちょっと待って。」誰かに確認しているらしい。ちょっとの間をおいて
「後ろから5両目だ。それから船は最長で5分までは待つと言っている。しかし信号が変わったら出港しないといけないから5分待てないかもしれない。早く来て!」
早くと言われても・・・
しかしたった5分しか待ってくれないのか。桜木町到着が28分。それから7分で着くのだろうか。自分の気持ちの中ではもう間に合うと確信していたのだが。
「桜木町から電話します。」そう言い残して電話を切った。お願いだ。なんとか船を引きとめておいてくれ。


19時25分 横浜駅

手に握っていた電話が震えた。
「もしもし」
「あ、Mだ。タクシーに乗ったら大桟橋の埠頭まで車のまま入ってきて。係員が誘導してくれるから。」
どうやら考えうる手段を駆使してくれているらしい。ありがとうMさん。
「了解しました。もうすぐ桜木町です。必ず間に合いますから。」
もうすでにロイヤルウィングでは乗船が完了していた。私達4人を除いて。
実はもうひとつの作戦も同時進行していた。乗船牛歩作戦。D社パーティに参加した総勢30人あまりが必要以上に乗船に時間をかけていたのだ。
乗船直前にトイレに行く者。忘れ物をしたふりをし待合室に戻るもの。ありがとう皆。


19時28分 桜木町駅

非情にも電車は定刻どおり桜木町駅に到着しつつある。いや遅れなかっただけましだろう。
事前に打ち合わせたとおり、まず私と咲が先に走る。タクシー乗り場まで先行してタクシーの乗務員に事情を説明する役だ。
電車が速度を落とす。減速が非常にゆっくりに感じる。階段の位置を若干通りすぎて停車。ドアが開く。全ての動作がゆっくりに思える。
咲の手を引き走る。切符は電車の中で既に用意してある。右手に握りしめている。自分のスイカもやはり右手に。スイカはVisorのケースに入れたままである。
階段を駆け下りる。焦って転んだり落とし物をしたら致命傷である。慎重に且つ急いで。
自動改札をまず咲を通す。そしてすぐ続いて私が。Visorのケースをタッチ。
ここでハプニング!改札が閉まる。しかし勢いがついていたので押し開けて通り過ぎてしまった。
閉まった扉の外側から腕を伸ばして再びタッチ。しかし反応しない。
ここでてこずったら間に合わない。幸い急いで来たので後ろに人は続いていない。自分はもう改札の外だ。
そのまま立ち去る。JRさんごめんなさい。
後でわかった事だが、この日Visorケースの中にスイカは入っていなかった。
八王子駅でピピっと音が鳴らなかったのは気のせいではなかったのだ。


19時29分 桜木町タクシー乗り場

タクシーに飛び乗る。運転手はドアを閉めようとした。
「すいません。あと二人すぐに来ますから。」
そう言うとこの運転手は
「じゃあ皆そろってから乗ってくれ。タクシーはいっぱいいるから。」
しぶしぶ降りる。
きっこと芽依を待つがなかなか出てこない。ちょうど今、桜木町駅はコウジしていて改札からタクシー乗り場が見えないのだ。
迷ったか!一瞬やな予感が。その瞬間電話が震える。きっこだ。
「どこ!」
「こっちこっち!」叫びながら改札の方へ走る。すぐに見つかる。良かった。
きっこが私を認識したのを確認してすぐにタクシー乗り場へ引き返す。
既に19時30分。出港の時間だ。
きっこと芽依が着く前に一足先にタクシーに乗り込み状況説明。
「大桟橋、国際客船ターミナルまでお願いします。向こうで係員が誘導してくれるので埠頭の中まで入っていってください。時間がないんです。お願いします。」
説明が終わったときにきっこと芽依が乗り込む。すぐさま発進。タクシーロータリーを右回転。タクシーでこれほどまでの横Gを体験したのは初めてだ。


19時33分 弁天橋

タクシーはかなり飛ばしている。そろそろ弁天橋を渡るため左車線にいるべきなのだがタクシーは右車線だ。
左車線前方にバスが走っているのだ。あのバスを抜かすつもりか。信号まであと100m。バスはもうブレーキランプをともしている。減速を開始しているのだ。
運転手はアクセルを踏み込みバスにならぶ。そして並んだと思ったら次の瞬間はバスの前に出ていた。交差する側の信号、バスの速度、そしてバスの前の黒のスポーツカー。全てから瞬時に判断したのだ。
確かにバスの前の車は若い男性でいかにも飛ばしますって顔をして運転している。
しかし横浜を走りなれているこのタクシーの運転手はもっとスマートに、そして速く目的地へいく術を心得ている。
いい運転手でよかった。名前を聞き忘れたのが残念だ。
弁天橋をとおりすぎるときはタクシーが上下動した。ふと映画で良くあるロスでのカーチェイスを思い浮かべた。


19時34分 本町3丁目

運転手が突然ハンドルを切った。タクシーを左折させたのだ。前方の信号が赤になったのだ。
次の角を右折。国道133号に平行して裏路地を走る。大通りとは違って人通りもある。交差点も多い。
しかし運転手は急停車、急発進を繰り返し走る。右手に県庁の新庁舎が見える。もうすぐだ。
時計を見る。19時35分。タイムリミットだ。ここで賭けにでる。Mさんに電話。
「着きました、大桟橋です!」
「どこどこ?三角の建物見える?ゲート開いているでしょ埠頭の中に入れてもらって」
「あ、はいわかりました。」
「信号変わったからもう出港するって。早く早く!」
電話しているうちにタクシーは国際客船ターミナルに到着した。
通常のターミナルへ向かうのではなくそのまま埠頭へ。係員がゲートを開けて誘導灯で指示してる。
ゲートを抜け左折。埠頭だ。右前方に客船が見える。ロイヤルウィングだ。


19時37分 大桟橋埠頭

船はまさに出港する直前だ。タクシーがタイヤを軋ませ急停車した。ロイヤルウィングに横付けだ。
「間に合いましたぜ!」タクシーの運転手が顔をほころばせて言った。ありがとう運転手さん。

Mさんが迎えてくれた。思わず抱き合った。嬉しかった。間に合った事に感謝。皆の協力に感謝。
船の乗船係員の方々にも笑顔が浮かぶ。きっこも咲も芽依も大喜び。最後まで諦めなくて良かった。
ロイヤルウィングの乗船口で振り返るとタクシーが桟橋係員に誘導されてバックしていく。
後ろ向きだったので運転手の顔は見えないがきっと達成感に満ちた顔をしていたのだろう。
埠頭にはブレーキの痕。潮風にゴムの焼ける匂が混じっていた。


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*1 ロイヤルウィング出航せよ(上) http://www.ikuyama.net/booknama/data/009.html

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